連載 思い出すけっち[あの人、あの時、あの言葉]・17
鎮魂—此岸から彼岸へのかけ橋
加藤 政子
1
1千葉大学看護学部
pp.438-439
発行日 1990年5月1日
Published Date 1990/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661900115
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小雨の降る寒い午後だった.精神病院に生活看護で入院中の若い男の患者さんが亡くなった.当時婦長だった私は八方手を尽くして,霊柩車とは言わないまでも,せめて枢を運べる車を手配してほしい,と何回も役所に掛け合った.
しかし,やって来たのは古ぼけたリヤカーが1台.それも「手引き」と称する,自転車すら付いていない,文字通り焼場の係員が肩にひもを掛けて引いてゆくものであった.リヤカーに乗せられた遺体はただ独り残された老父に付き添われ,病院横の急な坂を喘ぎながら登り,やがて淋しく消えていった.
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