連載 臨床の詩学 対話篇・8
木と木々
春日 武彦
1
1成仁病院
pp.70-77
発行日 2010年7月1日
Published Date 2010/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661101661
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かつて読んだ小説にせよエッセイにしろ、妙に印象的な場面が描かれていて、ではなぜそれが印象であったのかといえば「言い回しが巧かったから」というケースがある。そこで、内容は大雑把ながら憶えているから、ひとつ自分のボキャブラリーを使ってその場面を頭の中で(ちゃんと文章で)再現してみる。
すると、自分が最初に読んだ際のあの輝き、「なるほど」と腑に落ちた語り口、心にダイレクトに届いた言葉の数々といったものが立ち上がってこない。そこそこに意味は通じるのだが、パンダを描き出そうとして猫のことを語っているかのごとき物足らなさに堕してしまい、不全感ばかりが残ってしまう。
言葉の力はまことに微妙で、どうやら意外な単語(ことに動詞)の使用で文章の説得力に差が生じてくることが多い気がする。
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