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退院指導のナースの目
マサオさんへの退院援助
かれこれ10年近く前,私が病院のソーシャルワーカーをしていた頃の話です.
ある日,入院患者のマサオさん(仮名;84歳・男性)の奥さん(79歳)が相談に来ました.「退院が近いので自宅で使うベッドを借りたい」とのことです.私は,くわしく話を聴くことにしました.
マサオさんは,70歳の頃に高血圧症の指摘を受け,それ以降は近所の診療所に定期的に通っていました.しかし,1年ほど前に膝を少し痛めてからは通院がおっくうになり,自覚症状もないことから受診が途絶えていたようです.そうしたところ,不幸にも3か月前に脳出血で倒れ,救急車で病院に運ばれて入院したとのことでした.
入院後は保存的治療が行なわれましたが,脳出血による左片麻痺があり,加えて加齢のために機能回復訓練が進まず,右上下肢も廃用性の運動障害を起こして寝たきりの状態になっています.残念ながら,これ以上の入院治療を続けても回復は見込めないことから,退院を検討することになりました.
このときのマサオさんの病棟での状態は,食事はギャッチベッドを起こして全面介助で刻み食を食べ,排泄は尿・便意ともにはっきりせずオムツを使用していました.入浴は機械浴で行ない,整容や更衣も当然に全面介助が必要です.寝返りも自分ではできないことから,2時間ごとの定時の体位変換をナースがしていました.幸い,言語やコミュニケーションにさほど支障はなく,会話は可能です.治療は内服薬の服用と拘縮予防の関節可動域訓練程度で,日中は車いすをナースに押してもらって,病院内や周囲を散歩するのが日課になっています.最近は,マサオさんがしきりに「家に早く帰りたい…」とこぼすようになっていました.そのつぶやきを聞いて,奥さんも何としてでも自宅での生活を再開させたいと思っているようでした.
とはいえ,家族は奥さんのみの2人暮しで,自宅での介護は,この奥さん頼みです.
手際のいいことに,私がかかわりはじめたときには,病棟の担当ナースや栄養士から食事内容や介護方法のアドバイスなど,一応の退院指導は済んでいました.私が病室を訪ねると,退院指導を参考に,奥さんが自宅での介護のリハーサルさながらに,マサオさんのお世話をしていました.その手際はけっして良くはありませんが,方法は適切にマスターしており,ナースの助言に沿いながら,自分自身の曲がった腰をいたわりながらもていねいにやさしく….
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