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はじめに
当院では2003(平成15)年度から,神戸市看護大学の臨地実習の新たな試みである「総合実習」を受けている.「総合実習」のスタート当時,私は教育担当副部長で,大学からの打診に対し前看護部長とともに二つ返事で了承した.なぜなら,学生1名に対し1名の患者,無資格者である学生が実習することのリスク回避のため実践よりも見学で済ます実習,そのような状況に少なからず不満があったからである.
とは言え,現場はますます忙しく,学生が立ててきた計画をできるだけ実践させてあげようと思っても,「待つ」「一緒にする」という余裕はもはやなくなり,看護師が実施してしまうことも少なくなかった.そして,それは臨床,大学ともにいたし方のないこととして受け入れてしまっていたように思う.その結果,学生実習は看護チームの中で行なわれるというよりは,臨床現場とは別のところで学生と大学の教員とで行なわれ,現場の中で浮いている,お客様のような存在になりつつあった.現場と学生の距離感は臨床の看護師だけでなく,学生はもとより大学の教員にとっても実習現場はなんとも居心地の悪い場所になりかねない.このままでは,学生は実習を面白い,楽しいと思えないのではないか.看護師をめざし4年間も努力してきた結果,看護師に期待や希望がもてなくなってしまう危惧さえ感じていたのである.
確かに「1:1」の実習形態は,ある時期の学生にとって看護を学ぶうえで有効な方略であることは間違いない.しかし,臨床という場でチームの一員として,看護師がどのように看護サービスを提供し実践するのかについては体験できない.また,実際の臨床現場とあまりにもかけ離れた実習体験では,今後新人看護師として現場で受け入れることに大いに不安もあった.そればかりか,看護師という職業の実態を知らないまま卒業し,新人として働き始めたときにリアリティショックを受け,早期離職を招く可能性がある.大学側からすれば,臨床側にかなりの協力がないとできない実習と考えていたかもしれない.しかし,我々からすればぜひ協力して実現したい実習形態であり,臨地実習で臨床現場が果たすべき本来の姿に向けた試みでもあったのだ.
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