連載 『ケア学』の新地平 広井良典のケアをめぐる交話・4
ケアと遺伝医療
高田 史男
1
,
広井 良典
2
1北里大学大学院
2千葉大学法経学部
pp.380-383
発行日 2004年4月1日
Published Date 2004/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661100427
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
遺伝医療のいま
広井 遺伝子技術の進歩により,病気の遺伝子レベル,分子レベルでの解明がすすんでいます.しかし,それに伴ってさまざまな倫理的問題が浮かび上がっています.今日はそのあたりの話を伺えればと思います.最初に最近の話題として,高田さん自身も携わっておられる「遺伝カウンセリング」についてお話しください.
高田 近年,遺伝医療・遺伝医学は,学問として非常に進歩してきました.「ヒトゲノム計画」の完了がその第一段階で,大航海時代にたとえれば海図ができ上がったところ,今後は各地域を測量しながら,内容的に深めていくことになると思います.これは,見方を変えれば,病気のメカニズムは解明されたけれども「治らない」ということで,これがいましばらくは続くであろうということです.そんな時代背景のなか,わが国では一般の人々に医学的なバッググラウンドが乏しいのに加え,そこにアンスロポロジカル(文化人類学的)な,あるいは地域的,社会的な背景が相まって,遺伝にまつわる差別や偏見が独走してしまうことも多いのが現状です.
それらをベースに,実際の医療現場で問題になるのは,1つは自己決定,もう1つは個人と家族,あるいは個人と社会の間で生じるさまざまな葛藤です.遺伝カウンセリングとは,そうした葛藤を抱える人々の自己決定の手助けをするプロセスであり,それゆえに,先端科学技術と現場の臨床とを結ぶひじょうに重要な役割を担う医療行為であると理解できます.
Copyright © 2004, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.