特別寄稿
アメリカの医療における心理的・社会的サポートの経済評価—「ケアとしての医療」の充実に向けて
篠田 知子
1
,
広井 良典
2
1ハーバード大学公衆衛生大学院医療政策管理学研究
2千葉大学法経学部総合政策学科
pp.974-979
発行日 2002年12月1日
Published Date 2002/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541903663
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はじめに
医療における「心理的.社会的サポート」の意味
昨今,疾患構造の変化により,医療に対するニーズが変化してきている.以前は感染症などの急性疾患が主要疾患であったが,現在では生活習慣病.悪性新生物(がん)などの慢性疾患が主流である.この場合,急性疾患(特に感染症)においては薬物療法に代表される「医学的介入」が主たる治療となるが,慢性疾患においては,病院などの医療機関における狭い意味での「医学的介入」にとどまらず,日常生活の延長上での長期的疾患管理,および患者やその家族に対する「心理的・社会的サポート(psychosocial support)」が必要であり,これは疾病の治癒過程そのものに大きな影響を及ぼすものである(ここでは患者が持つ療養生活で生じる様々な心理的不安などに関するサポート,退院後のことや社会復帰に関するサポートなどを広く「心理的・社会的サポート」と定義する).
ところが現在のわが国の医療においては,患者やその家族は心理的・社会的サポートを受けられずに悩み,医療専門職もまた十分なサービスが提供できないことに苛立ちを覚えていることが最近行った調査で明らかになった1).一方,医療機関としては,現在の医療保険制度・診療報酬体系では十分に評価されているとは言い難い心理的・社会的サポートに,ケアの重点や財源をまわすことが難しいのが現状である.ある意味では,こうした心理的・社会的サポートの不足ということが,現在のわが国の医療が抱える最大の問題であると言っても過言ではないと筆者らは考えている.
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