連載 明るい肉体⑤
毛
天田 城介
1
1立命館大学大学院先端総合学術研究科
pp.854-856
発行日 2006年9月1日
Published Date 2006/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661100371
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「オペ前の剃毛って本当に切なかね.もちろんね,女性の患者さんを剃毛する時は悲しいし,切ないけど,でもねぇ,男性でも,たとえばさ,髪の毛が極端に少ない人でもそれはあるやない.アタシね,あの女子高生の子の髪の毛を捨てきらんけん.ほんと,泣いたよ~」
私とほぼ同じ歳であった九州出身の看護師の言葉である.今となっては顔も名前も思い出せないが,決まって夜中の2時に顔を洗う40代の女性のひどく乱れた髪になぜか胸の鼓動が鳴り止まなかったことが私にもある.その意味で,私たちの日常と同様に,病棟でも「髪」や「毛」は「性的記号」として消費されることがある.だが,それはごくきわめて稀な状況であり,私が記憶する「髪」や「毛」をめぐるエピソードはいつもなぜか哀しみと切なさに包まれている.
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