連載 明るい肉体④
骨
天田 城介
1
1立命館大学大学院先端総合学術研究科
pp.764-766
発行日 2006年8月1日
Published Date 2006/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661100356
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
「パーキンソン病のJさんって,いつも前のめりになって歩いているじゃない.でも,本人や家族に聞くとね,前のめりになって倒れないように頭の後ろに鉛がついているのをイメージして歩いているだって.それにね,トイレの前で立ち止まっていても,何とかしようとして,次の一歩を踏み出そうとしているでしょ.すごいよね~.ワタシには真似できないな」
◎「無骨な」という言葉があるが,私は文字どおり無骨な人間である.一方,パーキンソン病により入院してきた60代男性のJさんは真に「骨のある」人だった.「無骨な」という形容詞は粗削りでスマートではないことを指し示す言葉である.対して,「骨のある」と表現するときの「骨」という言葉は,存在の中心となるとても大事なものを言い表している.だから,「骨のある人」とは自分(の存在)にとって真に大切なものを抱いた人という意味である.だから,「骨を折る」「骨惜しみせず働く」という表現は,自らが生きるうえで真に大事なことの成就のための努力を惜しまない行為,そのための尽力を厭わずに働くことをいう.だとすれば,「骨」とは,隠喩的にも実態としても,「人間がよく生きるための条件」を意味しているのだ.そのことがもつ可能性を,無骨な私はJさんからタップリと教えてもらった.その意味で,彼は私の先生であった.
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.