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皆さんは「子供は遺伝子(DNA)で決まっている」と教わったと思います。体形・能力・体質などは遺伝子で決まってしまう,と。「蛙の子は蛙」で,オタマジャクシはナマズや鯨にはなれません。「鳶が鷹を生んだ」を生物学的には突然変異と言います。突然変異とはよく使われる言葉ですが,でも,生物の生存に有利な突然変異は皆無で,全て突然変異は生存に不利です。ですから,巧みに環境適応してきた生物の進化を突然変異では説明できません。そこで,これから突然変異とは異なる「鳶の子供が少しだけ鷹になる仕組み」を説明しましょう。
高血圧の原因は遺伝的要素が大きいと考えられていますが,一方で環境的要素も疑われています。親が高血圧でも子供が必ず高血圧になるとは限りませんし,親が高血圧では無いのに子供が高血圧になることもあります。環境と遺伝との関係について,現代生物学は環境変化による体の変化(獲得形質)は遺伝しないと結論しています。一般的に血圧は加齢に伴う動脈硬化で説明でき,年齢とともに高くなります。安静時血圧が70歳で150mmHgならほぼ正常ですが,10歳なら高血圧です。遺伝的に高血圧のネズミは生後12週程から血圧が高くなり始めて,16週程で収縮期血圧が220mmHgを越えます。正常血圧のネズミは120mmHg程度以下です。そして,同じ週数の高血圧ネズミは正常血圧ネズミよりも老化が明確です。でも,高血圧ネズミも出生時の収縮期血圧は80mmHg程度で,これはキリンを除く全てのほ乳類の出生時血圧と同じです。この高血圧ネズミが胎児のとき,その母ネズミ(妊娠ネズミ)の高血圧を薬で治療すると生まれた子ネズミは高血圧になる時期が遅れます。高血圧は12週からではなくて,14週や16週から始まるわけです。もし,こうした妊娠ネズミへの治療を代々続けたら,血圧の上昇がほとんど見られなくなる子(曾曾曾曾曾孫?)ネズミが育つわけです。
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