- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
「患者とはなにか。その定義を一言で言ってみてください」。今回,日本を訪れた3週間足らずのあいだに出会った若いドクターやナースに尋ねてみた。戻ってきた答えのほとんどは,「治療やケアの対象となる人」であった。予期せぬ答えに思わずうろたえる。これは,長年,日本の医学医療界が人間としての患者より,疾患の治療を第一義として教えてきた結果に他ならぬ。「患者は,たまたま病気にかかった普通の人というほうが自然ではないか? きみもあなたも,みんな病気になったら患者だろう。患者は“病気”と“普通の人”の二面をもって入院してくる。だから,患者ケアにあたっては,病気の治療と普通の人の営みの2つを同等に扱うのが君たちの任務なのだよ」。
「アメリカでも,病気さえ治せばそれでよしという時代があった。だが,20年ぐらいまえに変革がおこり,患者の“普通の人”としての人権を重視するようになった。その手始めとして,病院は6床の大部屋を全廃した。その動機は“普通の人”の暮らしでは,キャンプででもないかぎり,大人数が同じ部屋で寝起きすることはないということに,遅まきながら気づいたからだ。その反省が,患者には,入院中もその人の日常生活に限りなく近い生活をしてもらうというケアの目標を生みだした。家族との面会は,たとえICUであっても,24時間制限なし。電話とテレビは1人に1台ずつ,シャワーとトイレは2人に1つ,いずれも使用に時間制限なし。寝具,パジャマはもちろん,患者は自分の持ち物を病室で使ってよし。食事は前の日に配られるメニューから,好きなものを選ぶ。食べる時間まで指定できる。付き添い人など,いっさい雇う必要なし。これが今アメリカで普通の病院に“普通の人”が入院した場合に受ける基本サービスなのだよ。日本の病院とずいぶん違うだろう。なぜだと思う?」
Copyright © 2002, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.