連載 りれー随筆・166
助産婦の「顔」が見えない
寺田 恭子
1
1大阪市立助産婦学院
pp.632-633
発行日 1998年7月25日
Published Date 1998/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611901979
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「助産婦」という職業は認めてもらっていない?
私は助産婦学校の教員をしています。学生が卒業して新入生を受け入れる準備もそろそろ佳境に入ってきた3月の末に,ぼんやりと家でテレビを観ていました。その時画面には,ある両親がT医大病院に損害賠償を求めた訴訟の判決のニュースが流れていました。わが子が出生後の入院中にうつぶせ寝にされていて,吐いたミルクを吸い込み窒息して脳性麻痺になり,7か月後に死亡した事件の判決でした。東京地裁は看護婦が継続的に観察する義務を怠ったと判断し,病院側の責任を認めて4800万円の支払いを命じたとのことでした。そのニュースの中で,ある医大の小児科の教授がコメントを述べていました。
この裁判は看護婦の過失が認められての損害賠償判決だったのに,なぜ当の看護婦や助産婦のコメントは求められないんだろう,と私は感じずにはいられませんでした。別のワイドショーでは,訴えた母親が「ガラスごしに自分の子どもの様子がおかしかったので,助産婦にインターホンで声をかけた」と,助産婦が関わっていたことをはっきりと証言していました。それにもかかわらず,当事者の助産婦のコメントは求められないのです。
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