連載 とらうべ
「みんなと仲良くする」子ではないけれど
川副 知佐
pp.801
発行日 1994年10月25日
Published Date 1994/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611901108
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幼稚園に入園して1週間ほど過ぎた頃,よくこういう質問を親から受ける。「先生,うちの子みんなと遊んでいますか?」それから続々と,この類いの質問は続くのである。「誰と遊んだ?と毎日尋ねるのに,ちっともお友達の名前を言わないのですけれど……」「一体いつになったら,お友達ができるのでしょうか」「うちの子は仲間はずれにされていませんか」親の心配は尽きないものである。しかし,私はこの質問に対して,親がすぐに安心するような答えは持ち合わせていない。結局,子どもの日常を伝えつつ,「大丈夫ですよ」というひとときの慰めを答えにする他ないのである。
5年前,私のクラスにM君という男の子がいた。彼は傷つきやすい自分自身を,他者へ暴言を吐くことで守っていた。当然のことながら,園のさまざまな行事の中で,クラスの友達,周囲の大人たちへと,自分の苛立った感情や不満を攻撃としてぶつけてきた。あえて言うと,いわゆる「集団不適応の子ども」であった。園生活2年間で,彼は彼なりに集団の中に馴染み落ち着いていったが,画一的な「みんなと仲良く」する子どもにはならなかった。しかし,私やクラスの子どもたちは,彼とともにさまざまなことを学んだ。
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