連載 いのちの詩を読む・4
見せない作為(西片幼稚園の場合/山本かずこ)
新片 豊美
pp.270
発行日 1988年4月25日
Published Date 1988/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207351
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山本かずこの詩は、誰もが経験する日常の風景をうたいながら、そこに巧みに自分の私的な体験をすべり込ませている。それも、ことさらと云うのではないさり気なさで。そのため読者は知らず知らずのうちに彼久の言葉にとらわれ、逆に深く魅了させられてゆく。「西片幼稚園の場合」は彼女の第三詩集『愛の力』の中の短い一篇で、この詩も幼稚園のそばに住んでいる人なら毎日のように眼にする風景をありのままに言葉にし、殆んど作為と云うものを感じさせない。作者が眼にし想ったそのままが読者の方に素直にさし出されている、そんな自然さのあるうまい詩だ。
だが詩とは実はそれほど単純なものではない。自然さの背後には非自然さを、単純さの背後には複雑さを想うことは詩を読む際の常道だ、と云うことを頭に置いてこの単純明快さを味わっていただきたい。と云うのも、第四詩集『ストーリー』で読者は「わたしの夢のなかではいつまでも大きくなれないわたしの子供。大きくなるには大きくなった子供にわたしが会いにゆかなければならないから」と云う作者の言葉に出合うだろうから……。
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