連載 おとめ山産話
膝手位分娩
尾島 信夫
1
1聖母女子短期大学
pp.1087
発行日 1985年12月25日
Published Date 1985/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206784
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山梨県東端,現在の上野原町の棡原(ゆずりはら)地区は鶴川両岸の標高約400mの急斜面の段丘にあり,その畑に作る米以外の穀類やいも,野菜等を食べてよく働く65歳以上の高年齢老が多い日本一の長寿村である。甲府市の古守病院長豊甫(とよすけ)博士がここに分院をもち,その学究的熱意によって長寿の原因を解明した数冊の著書を発表したり,多くの調査が長年にわたって続けられてきた。私は鳳鳴堂出版の永井氏から実状を聞き,無病息災,一生働き続けてある日率然と昇天する老人たちの自然死に憧れを覚えていた。だが,ここも30年前の道路竣工とバス開通で突然生活が近代化し,若年層は周辺に通勤,主食に白米が登場し,肉食も始まり,中年層に成人病死が現われて,明治生まれが昭和生まれの息子の葬式を営む始末となった由である。
山梨県は助産婦の普及が日本で最も遅れたところだが,昔流のお産に近代化の波がどう影響しているかを今のうちに調べておきたいと思って,本年8月の老人検診一行に参加させてもらった。今年は予備調査のつもりで各集落での検診に集まった約40名の婦人に私が単独に問診を行なったのみだが,意外な事実を発見した。それは前から私がよつあし分娩と仮称して頭の隅に描いていた娩出姿勢,正しくは膝手位分娩が普通に行なわれていたことで,馬などの真の4足獣では側臥位で娩出するらしいから,膝と手をついてよつんばいでお産するのは,かえって人間だけのようである。
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