今月の話題
妊娠と薬:すべての薬物が胎児には有害なのか?
高柳 正夫
1
1東芝中央病院産婦人科部
pp.1069-1074
発行日 1985年12月25日
Published Date 1985/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206782
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はじめに
分娩中には,ほとんどの産婦が,早くこの分娩を終わらせたい,と自分のことしか念頭にないように見える。中には,もう子供はどうなってもいいから,と本心をのぞかせるものもある。しかし,分娩が一段落すると,産婦の関心が急速に自分を離れて新生児に向かうことは,これまたほとんどの産婦が最初に,五体満足ですかと質問することからも察せられる。助産婦のほうも,聞かれる前に五体満足ですよと答えてしまう。本来,愛し合った2人の愛の結晶である以上,どんな子供であっても満足すべきであるという考え方もあるが,完全な上にも完全であることを望む純粋な親の気持ちに加えて,万が一異常があった場合の,将来の医学的・経済的・社会的,その他いろいろな問題を考えると,少なくとも今の日本の状況では,異常児に対して極端に敏感になるのもやむを得ないかも知れない。
奇形児が生まれる原因については,昔は何も分からなかったので,火事を見物するとあざのある子が生まれるとか,転ぶと兎唇の子が生まれるとかいわれており,これを避けるために胎教が重視されていた。昭和30年代にサリドマイド禍が問題になって以来,薬による異常の発生が急速に一般的常識となってしまい,妊娠中の服薬はいっさい危険とまで考える人も出てきた。
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