特集 受精革命
一宗教家の考えること
井上 洋治
pp.31-35
発行日 1983年1月25日
Published Date 1983/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206166
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人間理性の栄光と悲惨
スイスの精神医学者ボール・トゥルニエは,その著『暴力と人間』のなかでおよそ次のようなことを述べている。
動物が生きものを殺すとすれば,それは食べるためであり,動物は本能が食物として示すものは殺すが,普通には自分の仲間を殺すことはない。猫はねずみを殺すが,仲間の猫を殺すことはない。これは一つの決まりであって,動物が仲間の動物を烈しく攻撃することがなくはないが,普通それは弱者の抹殺を意図するものではなく,強者の優位を知らせるために行なわれるものである。したがって,敗者は勝てないとわかれば戦うのをやめ,勝者は勝利に満足して敗者をそのまま立ち去らせ,これを最後まで追跡して殺すというようなことはしない。その点,動物ではあっても他の動物とは決定的にちがうのが人間である。人間は戦いの相手を完全に殺してしまう。
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