特集 男性における"父親アイデンティティー"
父親像の変遷
米林 喜男
1
1順天堂大学医療社会学
pp.893-897
発行日 1982年11月25日
Published Date 1982/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206114
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はじめに
ドイツの精神分析学者アレキサンダー・ミッチャーリッヒが「父親なき社会」を著わしてから20年近くの歳月が流れた1)。この間わが国では,子どもたちの家庭内暴力,校内暴力,登校拒否,非行といった問題が頻出し,その原因は「ダメオヤジ」「ゴロネパパ」といった言葉でも象徴されるように,とどのつまりは,父親の影が薄くなったこと,すなわち,父権の喪失にあるといわれる。そして,今日では,「地震,雷,火事,オヤジ」の"オヤジ"や「厳父慈母」の"厳父"にイメージされる強い父親待望論をはじめ,もっと父親が子育てに積極的にかかわりをもたなければならないといった主張などもきかれる。
そこで,こうした議論や主張を一応首肯するとして,それではいったいなぜ今日,「権威のない父親」であるとか,「影の薄い父親」が現われてきたのであろうか,また,昔の父親には本当に権威があったのだろうかといったことなどを中心に,以下,若干の考察を加えてみたい。
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