特集 妊娠中毒症を整理する
晩期妊娠中毒症と保健指導上の対応をめぐる問題点
中嶋 唯夫
1
,
水谷 クニ代
1
,
真野 祥子
1
1日本医科大学付属多摩永山病院産婦人科
pp.543-549
発行日 1980年8月25日
Published Date 1980/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205747
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1.はじめに
従来より妊娠中毒症の発症原因として,諸説が仮説として報告され,胎盤からの毒素的物質産生,パテルギー反応の関与など,また米国を中心とする高血圧素因説,また最近では妊娠をうけいれる母体の対応能力,腎や血管,胎盤を中心とする循環器系の個人的な素因などについても言及されるに至っている。中高年の高血圧の疫学的研究報告をみると,妊娠を経験すると否とでその発現について,疫学的には特に有意差を見ないことから,妊娠中毒症罹患は中高年の高血圧を発現させやすい,一つの引き金にはなるが,高血圧例を増加させる原因にはならないと主張する,Chesleyなどを中心とする一派がある。このような意見があるためか,アメリカでは高血圧を合併しない症例は妊娠中毒症に含めない定義となっている。一方,欧州での定義は,臨床症状重視の考え方で,E-P-H-ゲストーシスと表現,浮腫(E),蛋白尿(P),高血圧(H)をそれぞれ度合別採点評価し,そしてこれらの合併症という考え方がなされている。
ところが,循環動態についても,妊娠中の生理的変化,妊娠中毒症との関連をとっても,未だ解明されておらず,また,因子分析を試みても,それが妊娠中毒症を発症させる因子か,妊娠中毒症発症によって随伴して現われる因子かの区別とて,必ずしも容易ではない。
Copyright © 1980, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.