特集 母と子のきずな
母性の自立とはなにか
平井 信義
1
1大妻女子大学・児童学科
pp.542-545
発行日 1978年9月25日
Published Date 1978/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205426
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1.母性とは?
母性とは,母親としての資質である。人間としての資質の中で,最も高く評価されているものが母性愛であり,それは,子どもを愛するがゆえに,犠牲をもいとわないからである。それは人間ばかりでなく,他の動物の母親が,身をもって子どもをかばうエピソードを引き合いに出して言われてもきた。自分の生命を投げ出してでも,子どもを助けようとする母親の姿は,至上のものとして讃えられてきた。母親を讃美する詩歌やその他の作品は,古今東西,限りなく多い。
子どもの犠牲になる母親の行動が,多くの動物にも見られるところから,女性の本能として考えられていた。どの母親にもこの本能が備わっており,子どもの犠牲になるほどの愛情の持ち主であると信じられていた。しかし,今から30年ぐらい前から,"母性喪失"という言葉が西欧の文明社会において言われるようになってきた。maternal deprivationの訳が"母性喪失"である。子どもを自分の手で育てようとしないばかりか,子棄てや子どもをいじめる母親が現われ,ついには"被虐待児症候群(親に虐待を受けている子どもの身体症状)"という言葉さえ現われてきたのである。動物においても,自分が生んだ子どもを育てようとしない例について報告され,その原因がどこにあるかが追求されるようになり,かりに母性本能というものがあるにせよ,それのみに信頼をおくことができないことが指摘されるに至った。
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