母と子を看とるなかで
母への涙
横尾 京子
1
1淀川キリスト教病院
pp.60
発行日 1978年1月25日
Published Date 1978/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205330
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"明日はトラブルケースの入院があるなあ"という主治医の声が準夜で働くわたしの耳に入ってきた。トラブル……また抗D抗体価の上昇かと思ったが今回は違っていた。そのトラブルとは,妊娠中毒症,羊水過多症で2児を水腫性胎児で失い,今回もまた同様の経過を辿っているというのである。よくある抗体価の上昇ではさほど驚きもしないのだが,彼女のトラブルはわたしを少々慄然とさせた。
というのも,彼女の過去の希少性が,羊水過多症即奇形という公式を決定的なものにし,新たな苦しみの様がわたしの脳裏を走ったからである。涙にくれる母親がわたしの肩に重くのしかかってきそうだった。医師の動きとは別に,わたしはやる方ない思いで,彼女もまた悶々とした母性の歩みの中にいるひとりなのかと咳いていた。
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