連載 おんなの視座
優生保護法改正案のウラにあるもの
水戸 洋子
1
1保育問題研究会
pp.57
発行日 1972年4月1日
Published Date 1972/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611204357
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経済大国の踏み台
「優生保護法」の一部改正案が国会に上程されている。その内容は①人工妊娠中絶の適応から「身体的又は経済的理由」を「母体の精神又は身体の健康」に改め,②重度の精神,身体の障害の原因となる疾病や欠陥をもつ胎児の中絶を認め,③優生保護相談所の業務に適正な年齢において初回分娩が行なわれるよう助言指導することを加える,の3点となっている。
この改正点の中でまず①に「経済的理由」を削除しようとしているのは,改正する側からいわせれば,日本はGNP第2位の経済大国になり生活が苦しいから生めないという理由は"実情"に合わなくなったからだという。しかし,その経済大国の踏み台にされ,しぼりとられている私達の生きにくさを象徴するかのように,年間150万〜200万もの女が中絶しているのが"実情"である。それは女が自立する過程の中で,生むことを拒否しているからではないのである。恒常的な物価高,低賃金は密集した木賃アパートの一部屋に若夫婦をおしこめ,ひたすら働くことを強要し,そこさえ子供の誕生とともに追いだされるのが"実情"である。
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