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ボクのパパであることを認めてくださいその2
前月号で認知(婚姻関係外で生まれた子供を自分の子供であると認める手続)について説明をはじめておりましたので,これからその続きをお話いたしましょう。男性が妻以外の女性との間にもうけた子供を自ら率先して自分の子供として認めようとしている場合には,役場の戸籍係に対して認知の届出をするだけでその効果をあげることができます(もっとも,子供が成年に達している場合には,子供の承諾が必要なことは前号で述べたとおりです)。しかし,もしその男性が,子供を自分の子として認めるのを拒んでいるときにはどうなるでしょうか。このような場合でも,親の意向に反してでも親子関係を認める方法が保障されていなければ子供の身分を守ることは不可能です。そこで,法律は「子,その直系卑属またはこれらの者の法定代理人は認知の訴えを提起することができる」(民法第787条本文)と規定しました。つまり,子やその子供たちは自ら,また,これらの人たちが成年に達していないときにはその人たちの親権者や後見人がその人達に代わって父親であるはずの男性に対して「私をあなたの子供であると認めてください」という訴えをおこすことができることにしたのです。
この規定も,今にして思えば全くあたりまえのことを保障したにすぎないのですが,実際には昔から認められていたものではありません。家族的統制が強く,家長が家族の指揮者の役割を果たしていた時代,しかも家族員の生活の保障のためには一定の農地を分散することなく確保しておくことが何としても必要とされた時代には,家族の統制外で生まれた子供を家に入れることは極度にきらわれました。そこで,親の方から自発的にわが子であることを認める場合はともかく,それ以外の場合には子供から子としての地位を求めて親を訴えるなどということは全く禁じられていたのです。その後旧民法はようやく認知の訴えを認める立場をとりましたが,それでも,認知された子が父の家に入るために戸主の同意を要求したり,また,父の死亡後はどんなに親子関係が明白であっても全く認知の訴えを許さないという不完全なものでした。そして現在の民法になってようやく,上記の戸主の制約は撤廃され,また親の死後も3年間は認知の訴えを出せるようになったのです(民法第787条但書)。では,認知がなされたとき,それによってどんな効果が発生するでしょうか。認知とは,まさしく「親子であったことを認めること」ですから,子供は生まれた時から認知者の子供であったとみなされます。その結果,親は,子が出生した時からその子を養育する義務を負っていたことになりますし,また,認知者について相続が発生しているような場合には,その子供は相続開始の時から相続人であったことになります。しかし,実際に認知がなされるまでの間にすでに第三者が認知された子の権利を取得してしまっているような時には第三者の権利をそのまま保護し,認知された子供には認知の時点で可能なかぎりの権利を与えることでやむをえないとしました。また,相続についても他の相続人がすでに遺産の分割を終わってしまっているような場合には改めて分割をやりなおさず,認知された子供には価格で支払えばよいとしています(民法第910条)。これは,すでに落ちついている権利状態を無用に混乱させることは避けるべきだという考えに基づいているのです。なお,認知が以上のべたようにきわめて重要な効果をもつところから,一度認知をした者はいかなる理由があろうともその意思表示を取り消すことはできません(民法第758条)。
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