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E. Salingサーリング博士の名前を助産婦諸君は知っているでしょうか。産科医でサーリング先生の名前を知らないようではよほど勉強のたりない人であるといっても決して過言ではないくらいに,この先生は産科学の発展に新しい分野を開拓した方なのです。サーリング法とよばれている新しい診断法は,分娩進行中の胎児の先進部,主として児頭の頭皮に2mmの小さな傷をつけ,そこからにじみ出る血液をほんの一滴とり,その血液のpHを測定し,酸性に傾いているのかどうかを見る方法です。胎児が酸素の不足した状態になると段々と胎児の血液のpHは下がって,酸性となってきます。つまり,私達はその酸性になる度合をみることによって,この胎児はもうすぐ生ませないとこのままでは危険なほど酸素不足,すなわちfetaldistress胎児切迫仮死になっていることを知るのです。
現在までに私達が行なってきた胎児を監視する方法は,トラウベの聴診器を主体とした人間の耳とその人の経験を頼った技術をもって行なわれてきました。それが超音波による胎児心拍数計が開発されて,胎児心音はマイクロフォンを通して誰にでもきかれるほど大きくすることも,現在1分間にいくつかの心拍数も持続的に記録することも可能になりました。さらに胎児心電図は母体の腹壁からも,先進部からもとることができ,くわしく分析することもできるようになりました。また,羊水鏡も開発され,腟から子宮口に小さい鏡を押しあててみると羊水の様子が破水する以前に観察され,これも胎児の危険を予知するのに大変役立っています。この方法からひきつづいて,羊水鏡の筒をそのまま利用して人工破膜をしたのに先にのべたように胎児の児頭皮を小さく切開して採血してpHを検査するのがサーリング法なのです。もうひとつ,陣痛計という器具もよく使われるようになりました。陣痛の強さを科学的に測定することは,胎児のうけている子宮の中の圧力を知ることと,胎児循環にどんな影響を与えているかを知るのにどうしても必要なことなのです。
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