婦人の目
赤ちゃん取り違え事件のその後
山主 敏子
pp.56
発行日 1968年11月1日
Published Date 1968/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203659
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ひとしきり赤ちゃん取り違え事件が世間をさわがせた時期があったが,このごろは病院側も神経を使っているとみえて,そういう事件が報道されることが少なくなったのは幸いである.生まれたての赤ちゃんはみな同じようで,わが子でも顔で識別することはむずかしい.しかし鍵をかけることのできる首輪とか腕輪をうみ落すとすぐにはめて,その鍵を親に渡すとか,まあ素人考えだがまちがえないための工夫はいろいろとあるだろう.二重三重の予防法が講じられていいはずである.なぜならばこう沢山取り違え事件が起こると,自分に似ていない子を持つ親たちは,ひとしく"もしやこの子も?"と,とんだ疑いをわが子にかけたくなるだろうからだ.
発見された取り違えは、多くの場合血液型のちがいからだった.もし血液型が偶然同じだったら,何のうたがいも持たず,生涯他人の子を自分の子と信じてすごしてしまうかもしれないのだ.昔は出産は病気ではないから,たいてい自分の家で生んだものだ.ところが戦後は異常産でなくても,病院で生むのが普通のようになってきた.だから大病院であるほど,赤ちゃん取り違えの危険率は高く,発見されていないケースがどれほどあるかしれない.知人の若夫人ももう病院で生むのがこわくなりましたといい,そのご主人は,生まれたらトタンにパチパチ,あらゆる角度から赤ちゃんの写真をとっておきますといっていた.笑いごとではないのである.
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