巻頭随想
赤ちゃんと心理学
前田 嘉明
1
1大阪大学・心理学
pp.9
発行日 1968年11月1日
Published Date 1968/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203648
- 有料閲覧
- 文献概要
スポック博士の「あなたの子ども—あなたのしあわせ」(独語版)を読んでいると,こういう質問にぶつかった."あなたは哺乳ビンの一番よくない点はどこにあると思いますか"
私は,こんなことなら自分にもわかる,と思って,わざと先を読まないでいくつかの答を考えてみた.哺乳ビンについている乳首の穴が使用しているうちに大きくなること.これが私の思いついた答の中で一番正解に近いのではないかと思ってみた.ゴムの乳首の穴が大きくなりすぎると,なぜいけないか.そのような場合,赤ちゃんは弱い力で吸っただけでミルクが楽々とのめるかわりに,吸啜(サッキング)という欲求を十分に満足させることができないからである.つまり食に対する欲求の満足と吸啜の満足とは決して同じでない.そして吸啜の欲求不満に陥入った赤ちゃんが(特に3ヵ月以内は)吸啜調整がおくれたり,執拗な指しゃぶりを行なったりすることは,すでに多くの学者によって指摘されているところである.だから乳首の穴が大きくなったら,新しい乳首にかえることがのぞましいといわれている.
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.