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昔から"血の一滴"とか"血のつながり"という言葉があるが,20年ほど前から,この大切な血液が時によっては大変な害をすることがわか一,てきた."時によっては"ということは"母と子の血液型が合わない時"という意味である.人の血液型には,A,B,AB,Oの4種類があることが1901年に発見され,それ以来,重い病入に輸血する際にはこの血液型を考えなければならないことは医学上の常識となったが,考えて輸血を行なっても,輸血後すぐにガタガタふるえて,全身が紫色になり,苦しみ,死ぬことさえあることに気づいた.こうして1940年,ランドスタイナー博士やウィーナー博士たちによって,それまで考えられていた4種類の血液型のほかに,RhプラスとRhマイナスという血液型があって,もしマイナス型の人にプラス型の血液を輸血したりすると,危険な症状の現われることが明らかになった.ところで,母親の体内に胎児が宿った時には,母と子との血のつながりは,輸血に似た理屈になることが医学的に確かめられた.したがって,母親の血液型がRhマイナスであって胎児がRhプラスである時は,両方の血液型が不適合の状態となって,かよわい胎児の方がひどく影響を受け,胎児の体内の血中の赤血球がこわれ,重い黄疸となり,脳の中枢神経細胞の核までも黄色に染まり,死ぬことがある.また,死なないまでも,精神身体障害者となって,不幸な生涯を送らねばならないことがよくある.この血液型不適合についてABO型でも似たようなことが起こる.さて,このような母と子の血液型不適合による不幸な赤ちゃんを救うにはどうしたらよいだろうか.それは実に簡単なことなのだ.すなわち交換輸血という方法だけで赤ちゃんは救われるのである.わかりやすくいえば,もし,母子血液型不適合の赤ちゃんが生まれ,黄疸が強くなったならば,すぐに,赤ちゃんの身体の中をめぐっている悪い血,すなわち重症黄疸を起こすビリルビンという色素が多量に含まれている血液を抜き取り,そのかわりに良い血を入れてやるのである.そして,この交換輸血さえ行なえば,生命を救うことができ,健康な赤ちゃんとしてすくすく育つようになるのである.
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