研究
妊産婦のヘモグロビン値の変動と鉄剤投与の影響
曽根 ツネ子
1
1東京衛生病院
pp.62-64
発行日 1968年6月1日
Published Date 1968/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203584
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
妊娠中人体ヘモグロビン値は多くの場合低下する傾向がある.これは全身の血漿が増加するために血液が稀釈され,その結果ヘモグロビン値が低下する生理的現象と考えられてきた.血液が稀釈されるために分娩時の失血によるヘモグロビンの消失を最少限にし,また血液凝固性を変えることにより,血栓形成を防ぐ自然の防禦機転と唱える人もあった.しかし,最近は生理的貧血を否定する論議が強い.というのは必ずしも血液の稀釈はみられず,また妊娠中のこのような貧血は鉄剤投与によって回復し,非妊時の正常値の維持が可能であることが認められているからである.ここで妊娠中の貧血の正常状態と病的状態との診断基準を考えてみるとヘモグロビン11.5gm/dl以下になると鉄貯臓(肝,脾,骨髄)が減少し始め,完全に空虚の状態になるといわれる.また10gm/dl以下のものが統計的に全妊産婦の20%前後しか存在しない.そこで現在では正常の限界を12gm/dl(ザーリー75%)と唱するものが多い.鉄剤によって非妊時の正常値を維持することができるのだから妊娠にも非妊婦の正常値を適応すべきだと主張する者がある.はたして,そうであろうか.いずれにしても妊娠中貧血があると妊娠中毒症,その他合併症を起こしやすい.また分娩時に出血しやすくなったり,少量の出血でも母体への影響は大となり,また児に対する影響も考えなければならない.
そこで私は妊娠中および産褥を通じてのヘモグロビン値の変動および鉄剤投与の影響について観察を行なったのでここに報告する.
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.