「おんなの書」評
愛からの出発—三浦 朱門
若林 恵津子
pp.54-55
発行日 1968年6月1日
Published Date 1968/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203580
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「私が未来の妻と出会ったのはゴミ箱のそばであった.」と軽妙でユーモラスな筆致でこの随筆は始まります,未婚の男女は,何時,いかなる形で未来の配偶者に出会うかわからないのだから,常に万全の用意をしておかねばならない.よくはじめてのデイトに,豪華なショウや映画,レストランなどを選ぶ人がいるが,実際にはこうした雰囲気に負けない人は滅多にいるものではない.エリザベス・テーラーや,B・Bを見た後で,さて隣りの娘を見ると,十中入,九まではひどくブキリョウにみえるものだ.したがって,服装,肉体の美しさを実際以上に見せたいと思ったら隅田川などを選ぶといい.「あの川の色の汚なさにくらべたら,どんな娘の肌でも真珠のように見えるし,また彼の物すごい口臭は,ぜんぜん匂わなくなってしまう.」と朱門氏は親切にデイトの場所まで指定してくれます.
さて一旦,恋人同士になったら自己の才能をフルに使うべきである.「すべての人が天才になれるのは,恋をしている時だけ」なのだから,そんな時にドライヴ,ボーリング,ダンスなどレディメードな遊びや,おきまりのデイトのコースなど歩くという手はない.食事をして,映画を見て,暗い公園か温泉ホテルへ行く以外に時間のつぶしようを知らない恋人たちはあわれである.一切の道具だては不必要だから,ただお互いの身の上話や,本を読んだ感想や,悲しみや喜こびを語り合う時間を持つことだ,とおっしゃいます.
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