現代のカルテ
詩と真実
野口 肇
pp.48
発行日 1968年2月1日
Published Date 1968/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203523
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昨年11月末,アメリカ各紙はいっせいに,マクナマラ国防長官の辞任,ふつうのことばをつかえばクビを伝え,おどろかせました.ご承知のように同氏はベトナム侵略をはじめた故ケネディ大統領の時代からジョンソン政権にいたるまでの7年間,最高の戦争指導者の位置にあり,だからベトナム戦争を一般は「マクナマラの戦争」とよんでいたほどです.ひとつ特色があるとすれば,同氏は民間のフォード自動車会社社長から横すべりして国防長官にむかえられたことだが,日本のふつうの通念とちがい,アメリカは昔から文官出身だから「平和」色の濃いハト派,職業軍人だから好戦的なタカ派という区別はありません,歴代の国防長官はたいてい民間出身,それも主として軍需大会社の社長がケタちがいに俸給のすくない政治指導者になる習慣です.つまり軍需資本の代表者として入閣するわけです.
だがこれについて新聞その他いろんな報道は,こっけいにもにわかにマクナマラ氏をハト派に祭りあげ,ジョンソン政権内部ではこの機会に戦争強硬派が勢力を来し,北爆強化などいつそうベトナム戦争に深入りするだろう,などとあることないこと解釈しています.まるでいままでマクナマラ氏が戦争拡大へのブレーキ役でもはたしてきたように,だが事実はこうです--在職中マクナマラ氏はじつに10回もベトナム前線にでかけ,そのたびに戦争を縮小するどころか,逆に拡大した.日本までふくめてアジアの「自由諸国」に戦争協力させ,金で釣つて南朝鮮などにナマの軍隊をひきいれたのも,他でもない同氏でした.こういう人物をいまさら平和戦士あつかいするのはお笑い草です.
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