- 有料閲覧
- 文献概要
小4のA男は3月前に転校してから元気がない.給食のミルクがいやで登校拒否の状態だ,と医者に話したら,"君かあ,ミルクが飲めないで先生に頭からかけられたのは"といわれて母はそのことを知った.先生に頭をコツンとやられて一口飲み,顔を打たれて一口飲むのだと遊びにきた友だちから知った.前校では無理に飲まなくてもよかった.現校では飲まなくてはいけないが最初の1週間はよろしいということになり,8日目に飲まないといったら先生がミルクを頭からかけたという.ミルクを飲み終らないうちは学習もさせてもらえない."僕今日の国語は0点だ,やれば100点とれるんだがミルクが残っていたから試験がうけられなかった"とくやしがっているともいう."何とかミルクが飲めるようにしてほしい,という母のことばに応えたいと私は私の研究仲間と話し合ってみた.S先生は"僕も飲めないんです.嫌いな奴は返せっていうんですよ"O先生は"偏食と性格は関係があるが,お子さんの性格をなおすために,というと親は機嫌が悪いから偏食をなくすために給食は全部食べさせる,というと喜ぶ"という.だがいやがる子に飲ませる方法は?
さてA男と逢う.どこか利かぬ気の見えるお坊ちゃん.遊びのこと,友だちのこと,勉強のことなど話し合う.音楽が得意でこんどの学芸会にはA男ひとりが太鼓を打つ晴れの役をするのだとうれしそう."えらいのね,そんなにえらいのにどうしてミルクなんかに負けちゃうのよ"(不審の面持)"だってミルクがこわくて飲めないんでしょう?"(黙)"飲めるの?"(首をふる)"なによあんなもの,ミルクなんかに負けるもんか,えい!ってダーツと飲んじやえばおしまいよ".(じいっとみつめるA男の眼になにかが感じられる)"そうでしょう,飲めないのはあなたが負けているのよ,あれっぽっちのミルクをいやだなあって少し飲み,またいやだなあって少し飲む……おかしいわ,あなたのように勉強のよくできる人が……(間,口許がひきしまる)"あなたお薬好き?"(首をふる)"じゃ病気してものまないの"(首をふる)"のむの?"(うなづく)"なぜ?""病気がなおるから77 14そうねお薬は体にいいからね,ミルクはどうなの?タフ 44体にいい""先生がいったからなの,あなたがそう思うの?""僕がそう思うの""そう,やっぱりあなたはよくわかっているのね,あなたはお薬をのむ時少しずつかじる?""ううん""ごくっとのむ?""うん""そうね,かじってたらまずいもんね,ミルクも同じよ,体にいいんだからグーツとのんじゃえ,ミルクなんかに負けるもんかって,やってみないかなあ……"(間)"やってみる"決然という.(もっと早くのめるようになっていたらよかったと思うことなどについての問答は略す)
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.