講座
脳性小児麻痺研究の現況
宮坂 登志子
1
1東京小児療育病院医務部
pp.25-29
発行日 1965年3月1日
Published Date 1965/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202928
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1.はじめに
脳性小児麻痺という病気をはじめて世の中に紹介したのは,イギリスの医師リットル氏であり,約130年前のことである.わが国においては,故東大名誉教授高木憲次氏が早くから脳性小児麻痺を研究し,1925年にこの疾患の機能訓練方法を確立し,その治療効果について,1955年日本医学会総会に発表した.以来現在まで日本における脳性小児麻痺の問題をとりあげてきたのは,高木氏とその門下の人びとであったと言っても過言ではないだろう.脳性小児麻痺に関する研究論文は,私の既知のものだけでも,400編をこえている.多くの研究者によって研究され,研究成果も大であったが,最も重要な本疾患の病因がつかめず,多くの場合推定にとどまっている.したがって根本的な治療法も予防法も確立されていないのが現状である.もちろん,これはひとえに脳研究の困難なためであり,ごく最近まで脳研究の手技が開発されておらなかったためであろう.
しかし,最近脳に関する生理学,生化学的,形態学的および物理学的な研究の進歩はめざましく,脳の秘密が一歩一歩解明されつつあり,また人間のもっとも神秘な精神状態に対しても実験的な研究によって解明されつつある,したがって,本疾患における脳の医学的研究も可能になりつつあるわけで,近代科学の新しい研究手技によって脳性小児麻痺の病因を追求するために脳の研究を行なうことは,主としてこれからの研究によるわけである.
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