巻頭随想
妊婦に静かな環境を
五島 貞次
1
1毎日新聞
pp.9
発行日 1965年1月1日
Published Date 1965/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202892
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昨年の夏,盲腸炎で東京都内のある大学病院に入院したことがある.手術をした当夜は,注射のせいかぐっすり寝込んでしまって,なにも気がつかなかったが,翌日の夜になって驚いた.病室のすぐ間近かで,すさまじい工事の騒音がする.クイ打ちの音,じゃりを流す音などが入りまじって,眠るどころか,頭が痛くなるほどである.ふつうの健康体の人間でも,こんな騒音を三十分も聞かされたら,変になってしまうにちがいない.まして,こちらは病人である.なんとかならないのか,と付添いの看護婦さんにたずねてみた.すると,もっと驚いたことには,わたくしの寝ている下の二階には,妊婦の病室がいくつかあるそうである.そこは,ここよりももっとやかましい,という.
騒音その他の公害は,数年来やかましい社会問題になってきている.公害は病人にかぎらず,すべての人間のためになくさなければならない.が,病人の場合は,とくに環境に十分な配慮が必要である.公害のなかでも,騒音は病人にとって最大の敵といわなくてはならない.
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