映画コーナー
肉親愛とその相剋—「家族日誌」(米MGM伊チタヌスプロ作品)
志摩 夏人
pp.47
発行日 1964年3月1日
Published Date 1964/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202721
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肉親であるゆえに,愛し愛されていながら,お互いにそれ以上の何もできないいら立ちを,この映画はあますところなく描き出している.別々に育てられた2人の兄弟と,彼らの祖母の織りなすぎりぎりの人間存在を,カメラは冷徹に写してゆく.そこには,奇もてらいもない.どちらかと言えば,この手法はかなり古風である.
若い新聞記者のエリンコ(マルチエロ・マストロヤンニ)は冷えきった記者クラブで電話を待っていた.予期したとうり,その電話は弟(ジヤック・ペラン)の死を伝えたのだ.彼の頭の中には,いろいろな思い出が,つぎつぎと思い返されていた.父母を幼い日に失って里子に出された屈辱感.厳父のもとから逃げだして来た弟と,まっ暗な部屋でだき会って寝た悲しい一夜.エリンコと違って,気の弱い弟は,結婚にも敗れ,いまさっきまで不治の病で余命いくばくもない有様だった.ことあるごとに兄をたよろうとする弟.彼は「生きたい」と訴えるこの弟に,ひきちぎられるようないとおしさを感じていた.「愛することと頼ることは違うのだ」そう思いながらも,弟になにひとつしてやれない自分が腹立たしかった.弟は死んだ.彼はふがいない自分が今してやれることは,ただ悲しむことだけだ,そう心の底で秘かに思うのだった.原題Family Dialy.1時間45分.日本ヘラルド配給.
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