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周知の通り,1992年は日中間の国交が回復して20周年にあたり,これを記念する行事が,夏の終わり頃から中国国内で各方面で多彩に行われ,天皇,皇后両陛下の訪中は記憶に新しい.医学の分野でもこれを期に,中華医学会と日本医学会とが共催し,「日中医学大会1992」として,10月末から11月始めにかけて北京で行われた.そして実に32の分野でそれぞれ分科会が開かれ,1000名を越す日本の医学関係者が北京に集まった.北京は,既に真冬に近く万里の長城等は雪にみまわれ思わぬ素晴らしい景色も堪能できた.吐息は白くその熱気は,今回の大会の盛り上がりを象徴した.脳神経外科の分野では50名弱の日本からの参加者をみた.今回の脳神経外科のシンポジウムは,日中及び中伊のそれぞれ異なる友好シンポジウムが合体して行われたものであり,これは,王忠誠会長の主催によって為されたものである.これには,日本側は,高倉公朋教授,イタリア側は,Albino Bricolo教授(ベローナ)が共催された.場所は,北京飯店に併設して新たに出来た貴賓楼の中国風の雰囲気のある会場であった.演題数は,日本40篇,中国46篇,イタリア20篇であった.公用語として英語が用いられた.従って,本大会に出席した中国の神経外科医は,それなりに限定されたものである.日本からは,基本的に中国に関心をお持ちの先生方が参加され,それぞれが先進的なお仕事を報告された.これらが,アクティブな中国の同輩にとって刺激的であった事は言うまでも無い.
中国からの演題は,脳腫瘍が30篇,血管系は12篇(そのうち,AVMに関するものが8篇)と偏りが目立つ.動脈瘤については,1篇の報告にすぎず,この国では,蜘蛛膜下出血そのものが,これからの課題と思われる.これは,かつて,我が国でもそうであったように,この疾患は,内科的に処理されている事が多い為であるようである.脳腫瘍の演題からみてみると,疾患の総論に関するものでは,小児脳腫瘍の2000例の分析と症例数の多さに先ず圧倒される.協和病院から,116例のクッシングを含む下垂体腫瘍のマイクロサージャリーの優れた報告が目立つ.また,頭蓋底手術への関心も高まりつつあり,海綿静脈洞の腫瘍や,cliVUSの髄膜腫に対するマイクロサージャリーといった報告があった.マイクロウェーブを髄膜腫内にアンテナを挿入し2450Mzの波でハイパーサーミアを施してIEIfl[効果を高め外科的に摘出を容易にするという工夫,グリオーマに温熱化学療法の臨床応用といったすでに単純な外科の領域を越し,外科自体もマイクロが当然の様に導入され,さらに独自の工夫を行う余裕が出て来た事が伺える.また,CTを用いてステレオでアイソトープを腫瘍内に投与するBrachytherapy(198Au,32P,90Y,)200例という報告もある.化学療法は,先に日本より導入されたACNUを用いた報告もあるが,中国国内で製造しているBCNUが基本となっている.中国の古典的な薬Berberineを用いた実験的研究なども今後の結果が楽しみである.基礎的な研究報告もみられ,多剤耐性のヒトグリオーマに対するmolecular hybridizationを用いた研究など先鋭的なものもあり,条件が整うと将来が期待される状態である.血管系は前述の様にAVMに関するものが主体であり,症例の多さを除いて特筆するものはないが,en−dovascular surgeryも流行になりつつあり,絹や麻の糸が用いられている.興味深いものでは北京神経外科研究所のTransvenous retroperfusionの実験があった.猿で可逆的な中大脳動脈閉塞モデルを作成し,麻酔下でfemoral arteryから体外循環させ,頸部より両側のSig・moid sinusに特注の3層構造のバルーン付のカテーテルを挿入し,ischemic brainに対して,逆行性に静脈洞より循環を試みたものであるが,MRI,SPECT,TEMをモニターに用いた本格的なものである。結果としては,4時間以内のstrokeには有効ということである.
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