映画コーナ
戦争にゆがめられてゆく"人間"—『勝利者』(米コロンビア)
志摩 夏人
pp.47
発行日 1964年2月1日
Published Date 1964/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202702
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「勝利者」というコトバのもつ勇壮な趣は,この映画の内容と恐ろしくかけ離れている.はじめから終わりまで,勝利のマーチのとどろく場面はほとんどない.戦争が人間性を破壊し,堕落させてゆく過程を,映画はいくつかのエピソードで積み上げてゆく.舞台は,第二次世界大戦でイタリア,フランス,ドイツを転戦するアメリカの小隊.
たとえば,こんなエピソードがある.降服する敵兵に機銃を浴びせかけるフランスの将校は憎悪に顔をひきつらせながら言う.「君たちだって,祖国を泥靴で汚されてみたまえ.この気持がわかるよ」と.戦争が人間を狂気にするよい実例だ.そのほか,飢餓ゆえに兵士の死体から金を盗む子ども,売春に羞恥心さえ失くした娘——しかし,誰が,そのひとりひとりをとがめることができようか.すべて,戦争が人間の心まで破壊してしまった,悲しいナマキズなのだ.
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