Medical Box
頭部外傷とステロイド
畠中 坦
1
1東京大学医学部脳神経外科
pp.24-25
発行日 1964年1月1日
Published Date 1964/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202675
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脳はいろいろな病的条件のもとでその体積を増し,脳浮腫とか脳腫張と呼ばれる状態になる.具体的には,頭部外傷(脳挫傷,急性硬膜下血腫,硬膜外血腫.脳内出血),脳腫瘍やその手術後,脳卒中(脳出血,脳血栓,脳塞栓),脳膿瘍,髄膜炎などに伴って脳浮腫が起こる.その他にも呼吸・循環系障害で脳への酸素供給が不足したり,静脈還流が不良になったりすると脳浮腫が促進される.
脳腫瘍の手術後などに強い脳浮腫が起こって昏睡状態におちいったようなものの約9割は死亡するというのがこれまでの常識であった.尿素,ペレストンを用いたり人工冬眠をやったりしても,過半数は死亡したのであった.また,頭を強く打って死んだ人を解剖してみると大半は急性硬膜下血腫と脳挫傷が認められる.急性硬膜下血腫は脳挫傷と同時に存在するので,このような傷者を大急ぎで開頭手術をしてみても,強い脳浮腫のため,これまで世界中のどんな大家が手術しても,6割から9割が死亡したのである.これは慢性硬膜下血腫の手術死亡率が数パーセント以下であることとくらべていちじるしい違いである(東大における過去の急性硬膜下血腫の手術死亡率は62.5%で,世界中でも特に優秀なほうに属する).これまでの急性硬膜下血腫の手術死亡率が8〜9割に達したということは,瀕死の頭部外傷の大半が急性硬膜下血腫なので,このような重傷の頭のけがは手術しても大半は助からなかったということである.
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