母性保健特集講座 妊娠
妊婦の心理
村松 功雄
1,2
1相模女子大
2昭和女子大
pp.26-31
発行日 1963年6月1日
Published Date 1963/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202550
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まえがき
妊産婦の保健指導に,妊婦の心理とか産婦の心理を深く理解することの大切なことが,産科関係者の間に最近ようやく叫ばれるようになった.この問題を積極的に取り上げはじめたのは,たしか助産婦学校においては1943年頃から,また,保健婦・助産婦の研修会では1951年頃からのように記憶している.どうして,この問題に関心がもたれるようになったかというと,妊産婦の幸福を願い児の心身の健康をおもんばかる熱意のあまり起ったのである.
過去においては,妊産婦を身体的存在—医学的立場から—として観察・指導してきたといってよい.つまり,母体の変化と胎児の発育,分娩の可能性,妊娠中毒症の予防と治療など,産科学の上からのみ取り扱ってきた観がある.最近,妊産婦の医学的指導はむろん大切であるが,妊産婦は心理的に特異な情緒反応を起すという意味で,精神的存在であると同時に,社会生活をいとなみ,家庭内の人間関係において主役をなすという意味で社会的存在であるということに注目し,妊産婦を全体的・総合的に把握し,これにもとづいた指導が重視・要望されるようになった.妊娠期はいわば母性愛の発展期であり,社会的局面を背景とする感情生活の動揺期でもあるとともに,妊婦をとりまく人間関係の複雑さから,家庭間の葛藤をかもしやすい時期である.
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