母性保健特集講座 妊娠
母性保健と遺伝学
大倉 興司
1
1東京医科歯科大学
pp.14-24
発行日 1963年6月1日
Published Date 1963/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202549
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はしがき
この世に生まれ出ることの不思議さ,尊さを自分の目で見,自分の手で感じることのできる人は多くない.職業とはいえ,その感激を味わえるのは助産婦である.しかし,日夜の激務はその喜びを喜びとさせず,無感動な機械的な処置をする人間機械に追いやってしまう.生命の尊さを目のあたり見ることのできる聖なる職業をもつ者が,このような無感動な動作の繰り返えしに日をすごしてはなるまい.
今日の教育は,特に医学,歯学などの職業専門教育においては,技術という点に主力がそそがれ,えてして本質を無視,あるいは忘れがちである.これは,看護,助産,保健の教育においてもいえることである.しかし,最近のように,感染に由来する疾患や死亡が激減すると(第1表),われわれが対象とする異常は,遺伝性,先天性,あるいは体質性のものになってくる.より生命の本質にふれた知識なしには理解しえぬような疾患や異常が次第に増加しているのである.もちろん,絶対数の増加ではなくて,相対的な頻度の増加である.このように日常接する疾患の質が次第に変化すると同時に,われわれは遺伝学の知識なしには十分な診断,治療が行なえなくなってきたし,予後,特に遺伝予後の知識もきわめて強く要求されるようになってきた.
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