巻頭随想
巻頭随想
笠原 トキ子
1
1関東逓信病院産科
pp.9
発行日 1963年5月1日
Published Date 1963/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202530
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イアヌスという神様は,ローマ市民に古くから非常に親しまれてきた神様で門扉の守護神であると同時にすべての事物の始原を司る神だそうである.年の始まり正月のラテン名Januariusの語原は実にこの神の名前Janusから始まっている.この神様は二つあるいは四つの顔面を同時に持っているのが特徴で新しいものと同時に古いものも見るのだそうである.ラ・プリュデンスという古代の神様も,イアヌスのように二つの顔面を持っていて,一つの顔は花恥しい乙女の顔,もう一つの顔は皺だらけの老人の顔である.この神様は過去に積み重ねた多くの経験や知識から事物の将来の運命をよく予知できる千里眼的の霊力を持っていたと伝えられている.日本の仏像の中にも十一面の観音像などこれに似たものがある.われわれ人間も一日のうち一生のうちにいくつかの顔を持つことが必要ではないだろうか.人間の守護として尊ばれている神仏と人間とを一緒に考えることは神へのぼうとくかも知れないが,妊産婦を取扱うわれわれ助産婦の仕事の尊さは神に通ずるものだと私は信じている.そういう助産婦が仕事をする上には二つも三つもの顔を持っていなければならないであろう.
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