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書斎の整理
長谷川 泉
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1医学書院
pp.90
発行日 1962年4月1日
Published Date 1962/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202318
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書籍というものは,それを買つた時の愛着の気持がそれぞれにしみついているので,なかなか売りはらつたり廃棄したりすることはできないものだ.人にやるのは,その人がほんとうにその本の価値を知つている人の場合や,その本をほんとうに欲しがつている場合には,自分の愛着がその人に移るようなものだから気にはならない.しかし,それでもその本を集めた時の愛着の方が勝つことの方が大きいものだから,同じ本が2冊も3冊もあるのでなければ,なかなか人にやる気持にならないものだ.その本が買えるものならば,いちど自分の書斎に入つた本を人にやる場合には,もういちど買つてその本を人にやることが多い.
そんな具合だから,私のささやかな書斎の本はふえる一方である.応接間兼書斎は,本で足の踏み場もないくらいになつてくる.私は毎年大晦日に書斎の整理をすることにしている.そしてその度毎に,書斎から追い出されて別の部屋や廊下や玄関の空間に積み上げられてゆく本がふえる一方である.だいたいにおいて,シリーズになつているものや,一見してその本の所在がわかるような種類の本は,必ずしも手もとにおかなくても,よく見別けることができるから,書斎から追い出されがちである.
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