コーヒーブレイク
身辺の整理
I N
pp.128
発行日 1988年2月1日
Published Date 1988/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543204398
- 有料閲覧
- 文献概要
お正月になるといつも思い出すのは、何年か前に山で死んだ友のことである。彼女は元旦の朝、前人未踏の冬山コースを仲間と共に頂上目指して登はん中、雪崩に遭い不幸にして亡くなった。山が好きで、ヨーロッパのアルプスにまで行くほどの本格派の山女であった。何度も事故に遭い大けがをしたこともあるが、それでも山をやめず、山で死ねたら本望だと笑っていたが、そのとおりになってしまった。
彼女は山へ行く前には必ず、身辺を整理した。デスクをかたづけ、ロッカーも掃除した。仕事もやりかけのものやわけのわからないものは残さず、いつもきれいにしてから出かけた。いつ、山で死んでもいいようにという理由からだと言っていたが、冗談だと思っていた。しかし、彼女の遺品を整理している時、本当にいつも彼女は死を覚悟していたのだなと思った。それほど、見事に彼女の身辺はきれいにかたづけられていたのである。
Copyright © 1988, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.