映画紹介
赤い陣羽織
外輪 哲也
pp.25
発行日 1958年11月1日
Published Date 1958/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201567
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昔,或る田舎の水車小屋に,とぼけた顔をして風采の上らぬ甚兵衛(伊藤雄之助)と,町方の生れでとびつきり美人のせん(有馬稲子)夫婦が,いくばくかの田畑を持つて平和な日々を送つていた.ところが困つたことには,土地の代官荒木源太左衛門(中村勘三郎)や庄屋宇右衛門(三島雅夫)や神官胤臣(多々良純)などが,せんに心を寄せ,足繁く水車小屋を訪れるようになつた.中でも御熱心なのは代官で,赤い陣羽織を風になびかせて,さつそうと馬で乗りつける.この代官,生来の臆病者で,赤い陣羽織も本人がさる戦功で殿様から賜つたと自慢しているが,実は養子先に伝わるもので,弓や槍も武家育ちの奥方信乃(香川京子)に習つている始末である.外で代官風を吹かせて滅法威張るが,内では意気地がなく奥方に頭が上らない.代官のお目付役は他ならぬこの奥方様なのである.それにもかかわらず,代官は金や田畑を贈つたり,せんの弟の就職の世話をしたりして,せんの気をひくが,どうもうまく行かない.そこで祭の夜,職権を利用して甚兵衛を庄屋に捕えさせ,その留守に水車小屋のせんを襲うが…….
"赤い陣羽織"とは権力を象徴するものであり,それを中心にした庶民の健康的なエスプリと封建性未成熟時代の支配者のとぼけた味のおかしさが屈託のない笑いを誘う.この原話は民話だが,底ぬけに笑わしてくれる数少ない民話の一つである.木下順二の戯曲を高岩肇が脚色し,「囮(おとり)」を撮影中止した話題の山本薩夫が演出に当つている.
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