世界の波
中共貿易を妨げるもの
末松 満
pp.68-69
発行日 1955年5月10日
Published Date 1955/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200957
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現代教育学の父ジヨン・デューイ氏の未亡人ロバータ・デユーイさんが桜咲く日本を訪れてきたので,縁あつて私は案内役をつとめたが,東京中のホテルというホテルが外人客で満員なのには驚ろいた.だが一層おどろいたことには,ある一流ホテルの33室が空のまま1週間以上も客を待つていたことである.日々の部屋代10万円,だれがその損害を背負つたかは知らないが,待たれた客は中華人民共和国の通商使節団一行である.
近ごろの常識によると,「支那」という言葉は使わない方がよろしく,大ていは「中国」と呼んでいるようだ.だが,中国という国は,昔はいざ知らず,今の地球上には存在しない.中華人民共和国と中華民国,そのいずれかを略して中国と言うに過ぎないのだから,形式を貴び,一字一句をおろそかにしない役所の文書には使うべからざる言葉である.ところが我が外務省では,大陸から来る通商使節団の国籍を「中国」と書かせ「中華人民共和国と書くことを許さなかつた.使節団の人々としては,単に「中国」では台湾の中華民国と混同される恐れがあるとして承知しなかつたのである.わが外務省の考えによると,公交書である旅券の上に「中華人民共和国」という文字が書きこまれると,それは日本政府が中華人民共和国を認めたことになるのではあるまいか,との心配が生れたのである.
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