今月の言葉
世界の動きと自分
M
pp.5
発行日 1957年1月1日
Published Date 1957/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201184
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今まであつた「冷たい戦争」も雪どけの様子があり,世界は一歩々々平和へと向つていると思つていたところ,先般突如として,近東或はバルカンにおいて血なまぐさい戦いが勃発した.しかも,それが平素平和を題目とし,あるいは国際連合の設立者であるソ連,或は英仏という大国なのだから,驚かざるを得ない.新聞の報ずるところによれば,それら大国が兵を用いた理由なるものは自己の野望を満たすための,こじつけであることは明白である.第二次世界大戦のにがい経験をもつ我々としては,再びそのような愚をくり返すようなことはあるまいと考えられていたが,今回の事件をみると,前世紀的な暴力政治から一歩も出ていないことをみせつけられたわけである.このような事件をながめると,人間の本質は昔も今も少しも変らず,少しも賢明になつていないことを悲しまざるを得ない.この意味で,「歴史はくり返す」という言葉はある程度真実である.
これらの事件から,私らはいろいろの事を考えさせられるのである.平素立派なことを口にしていても,いざ自己に直接関連のある問題になれば,国といえども信義も,条約も無視して利己的になることを,まざまざと見せつけられたわけである.またどんなに正しくしていても,結局大国の武力の前には無力である.といつて,私らは利己のためには他人をふみにじり,或いは暴力をふるつてよいといえるだろうか.
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