講座
最近の親子鑑別法
牧野 総一郎
1
1東京医歯大
pp.6-14
発行日 1955年6月1日
Published Date 1955/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200858
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1.はしがき
親子関係に疑惑があり,法律事件としてとりあげられた場合,科学的には現在どのような方法によつて鑑別されているだろうか.私共は多年この方面の仕事に従つてきたのでこのことについて若干述べてみよう.読者諸姉の理解を一層容易にするためには,先ず法医学が親子鑑別の問題をどうして取扱うのかといつた点を明らかにするのがよいと思う.一体,法医学というと何か血なまぐさい殺人事件と結びつけて考えられやすいが,それだけが法医学のすべてではない.実はこの学問は死んだ人を対象にする分野(死体の法医学)と,生きた人を対象にする分野(生体の法医学)とにわけられるのである.勿論ここにとりあげた親子鑑別は後者に属するものであつて,医学と遺伝学との関係領域に位置する問題である.しかして,遺伝学そのものは,その発達の経過からしても人間についてよりも,むしろ人間以外の他の生物,例えば植物,動物,細菌といつたものについて非常に進歩しているものであつて,人類の遺伝学の発達は甚だ貧弱てあるといつてよい.そこで他の学問,即ち人類学統計学などがこれに加つてくることになる.そして,これらの学問を総括し,生きた人間に焦点をしぼつて研究する上には医学が中心になるべきであり,法律に関係する問題であるから法医学が取扱うことになるわけである.
さて親子間におこる係争事件には多くのものがあるが,親子鑑別を問題とする事件ほど深刻なものはあるまい.
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