今月の言葉
着実に実行を
K
pp.5
発行日 1955年6月1日
Published Date 1955/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200857
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もう大分以前のことであるが,朝のラジオ放送で,或る外人が上手な日本語でお話をしていた。自分は日本が大好きで,日本に永年住んでいる。しかし,戦後の東京は,どうもあんまり騒がしく,ケバケバしく,日本の良さが乏しくなつてしまつたので,この頃は逗子に住んでいる。毎朝愛犬を伴つて裏の小山に登つて静かな散歩を楽しむのだが,見晴しのよい丘頂に立つて眺める相模湾の景色,その彼方に静まつている富士の姿には毎朝毎朝心を奪われる思である。しかしながら,そこへ時折空気銃を携えた若者がやつて来ることがある。それを見ると何とも言えぬ嫌な気持になつてしまう。―私の故国では人々が小鳥を可愛がつて,鉄砲なんぞで小烏を打ち殺したりはしません。だからどこにでも小鳥がたくさんいて,街の中心でも小鳥の姿や歌声に接することができるのです。私は近頃日本で,しきりと平和々々,戦争反対などという声をききます。私もあれには大賛成なのですが,しかし,あんなことはカケ声だけのような気がするのです.それよりも小烏を空気銃で狙つたりしないというようなことから,先ず始めたらどんなものでしようか。
私は,ここまでこの放送をきいていて,ハツと心をつかれた。私共は近頃は何かにつけてカケ声にばかりとりまかれているような気がする。高い理想を口々にとなえることも決して悪くはない。カケ声を大声でふれまわるのもよいであろう。
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