社会の動向
総選挙迫る
長谷川 泉
pp.62-63
発行日 1955年2月1日
Published Date 1955/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200797
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国内のみならず海外の眼も,日本の総選挙の上にそそがれ出した.国内においては今度の総選挙が多年にわたつた吉田政権にまつわりついたあかをどのようにおとすかという意味において.海外においては,いまだに2つの世界の対立が続いている折から,日本の方向を卜するものとして.いずれにしても,日本の方向は,今度の総選挙の結果によつてはつきりした標示がなされることは間違ないところであり,それが総選挙の結果を注目させるゆえんである.
吉田前首相は,日本の政治家としては珍らしく政権に戀々としない高潔な人物のように言われてきた.しかし物議をかもした外遊から帰国して,内閣総辞職にいたるまでの経過を見るならば,必ずしもその言葉は当つてなかつたような印象を与えた.もちろんワンマンであるといつても一国の政党総裁ともなれば,自分1個人の考えで,いやになつたからさつさとやめるとも言い得ないだろうし,その間の事情は局外者が考えるよりも複雜であろうと思われるのだが,少くも何次かの吉田内閣の前半における吉田首相の態度は,いかにも政権などには慾がないんだ,いやならいつでも止めるといつたような無慾な態度が見えていたことは事実である.ところが後半においては事情が異つた.自由党の絶対多数が次第にゆらいでくるにつれ,政権を何とかして維持してゆこうとする権謀術数が第三者の眼にも見え出したのである.吉田個人はそうではなかつたかもしれない.
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