社会の動向
黄変米異変
長谷川 泉
pp.60-61
発行日 1954年9月1日
Published Date 1954/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200695
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「ビキニマグロに黄変米のニギリ」とは,何かにあつた漫画だが,それを笑えないような事態が,私達の身近かに切実である.「巷にビキニの灰が降る如く」とは,ベルレーヌばりの高野総評事務局長の殺し文句であつたが(ベルレーヌの詩は,巷に雨の降る如く,我が心には涙降るではじまる)そのような殺し文句が効を奏して,事務局長の椅子を守り得たほど,ことほどさように深刻な体験を私達が日常せざるを得ない事態におい込まれていることを考えなければならないであろう.
ビキニの雨は,ようやくジヤーナリズムから忘れられようとしている.マグロの廃棄も少くなつたし,雨が降るたびに無帽の頭をおそれたり、何百カウント,いや何万カウントといつた,およそ今までの日常生活からは縁遠かつた放射線学の最尖端の知識を日本人がいやおうなしに持たされた禍が,一応去つたかと思つたら,今度は猛毒の黄変米の配給というわけである.ことは食物のことであり,いずれも生命に関する事柄であるだけに神経がとがらざるを得ない.応接にいとまなしとはこのことである.
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