講座
農村における妊産婦指導
小林 敏政
1
1都立大塚病院産婦人科
pp.18-21
発行日 1954年8月1日
Published Date 1954/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200662
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文化が進むにつれて衞生面も向上し,これに伴つて農村の母性衞生も漸次滲透して来て,その効果がみられつつあることは誠に喜ばしいことであるが,然し農村のそれは他に比べると著しい差があり更に妊産婦指導の面では殊にその効果があがつておらぬため,妊産婦指導の徹底が今日の焦点となつていると思う.助産婦雜誌の編集室から表題の依頼をされたので,私見をのべ且つ実際面を強調して責をふさぐこととする.
さて日本の農業の多くは小農で,人力を主とし機械力を以てすることが尠い小規模のものであるから経済的に惠まれていない.從つて主食を主作して,傍ら副食物—野菜,味噌等は自家作であり,燃料は山から採取する等で,労仂力が極めて尊重される.又一面封建性が粗く,一般環境が從来の習慣から脱却しきれなく,從つて姑の権力は強大であるため何時とはなしに,嫁--母性の労仂加重が強制されるような仕組みになつている.又農村では嫁を貰うことは家庭の労仂力増強という観念に立つたものが多く--これで少しは樂ができようとか,甚しいものになると恰も,心の底には牛馬でも飼うかの如き考のものすらいるので,妊産婦指導の困難があるといえよう.又この間にあつて妊娠分娩は生理的である--お産の浮腫(むくみ)は何ともない,お産後じきによくなる.--妊娠中は仂くほどお産が軽い等の合言葉で労仂せねばならぬように仕向けられるのである.
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