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乳癌かと相談された時は?
藤森 正雄
1,2
1東大木本外科
2三井厚生病院外科
pp.13-16
発行日 1954年1月1日
Published Date 1954/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200518
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1.晩期の乳癌と初期の乳癌
数年前に60才を過ぎた1人の老婆が,乳房に腫れものができたから診察して下さいとのことで外来を訪れた.7人の子供を産み,半年前までは殆んど病気をしたことがない農家の婦人である.診ると左の乳房に超手挙大の半球状の腫瘤があつて,乳頭の少し外上方の部分は鷄卵大の範囲に赤紫色の変色を来し,その中央は潰瘍を形成して汚い膿苔が附着し,僅かな出血もある.腫瘤の表面はやや不平で硬く,大部分は皮膚と癒着しているが,胸廓との癒着は殆んどない.腫瘤を蔽う皮膚には数條の青紫色の靜脉怒張が放射状に走つている.
潰瘍部に觸れると痛みがあるが,自発痛は軽いという.乳頭を圧縮すると黄褐色の分泌液が少量出る.左の腋窩及び鎖骨下窩の淋巴腺は小豆大から碗豆大のものが数個硬く腫張していた.これは正に進行した乳癌の定型的な症状である.
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